小暑の候~工房便り~

小暑の候、W杯も佳境を迎え、すでに盛夏の趣を感じるこの頃。

古今東西様々な家具の修理依頼に加工にと、日々慌ただしく働くも、当工房ブログの筆は相変わらずのマイペースです。

さて、今日皆様にぜひご覧いただきたいのが、こちら山形県米沢地方の衣裳箪笥(上段部分)。中央の飾り金具に覆輪(円い縁取り)をまわした揚羽蝶の文様があしらわれていることから「蝶覆輪」の名で呼ばれる、明治~大正期の代表的な時代箪笥の一つです。

一見すると、弊社のスタンド付き箪笥と同じスタイルで、特に変わった所は無いようですが・・・

なんと引出しが・・・上下方向に展開!

こちらはN様のご注文により、本格的な時代箪笥をリビングで使用するAV機器用の収納ラックに作り替えたアンティーク・リメイクです。
ご依頼主のN様は、もともと昔の和箪笥に並々ならぬご興味をお持ちのお客様。ご自身の和箪笥への思いから、一般的にはあまり結び付けられない「和箪笥」と「AV機器」の融合を、この見事なアイディアで私達にご提案下さいました。

私、伊東にとっても、これは初めての試み。作業着手から細かな試行錯誤を重ね、ディテールに神は宿るという言葉も再認識することに。

今回、特に気を遣ったのが金具です。引出しを丁番による開閉式へ作り替えるにあたって、いかに金具を目立たせず、オリジナルの印象を保てるかが仕上がりを決定すると考えました。一般的な平丁番を使った場合、作業自体は比較的容易ではあるものの、本来の外観には無い軸部分が表に見えてしまうことから、ここは敢えてドロップ丁番を選択。結果として集中力を問われる作業になりましたが、納得の仕上がりとなりました。

「二つ目のこだわり」

開閉式とは言うものの、問題は「扉」になった引出しがどう動くかです。下に向けて開くため、オープン時にまったく抑えが効かなければ、手を離れた扉はバタン、と急に開いてしまう。ドアクローザーのない玄関扉を想像していただくと分かるように、ちょっと危ないですし、せっかくなら開閉の動き自体にも上質感を求めたい。
そのように考え、スーッと開くタイプのステーを選択。シンプルな構造で上質な動きを見せてくれる所はさすがのメイドインジャパン。とはいえ時代家具での使用を想定していないパーツであるため、メーカーさんの説明書に従って取り付けてしまうと今度は錠前の位置が噛み合わなくなってしまいます。そうした調整もあって最後まで気の抜けない作業となりました。


背面には配線用の穴

いざ完成してみると、やはり表から見えないタイプの丁番を選択したことは正解だったようです。もとの時代箪笥の外観を完全にキープしたまま、引手に手を掛け開くや否や、100年前の昔の引出しと思っていたものが、実に滑らかに、自動的にオープンする様子には、驚きだけでなく、ちょっとした快感も。粘りのあるステーの動きにも無駄がなく、ただ扉を開くだけの動作が予想以上に気持ち良く感じられました。
やはり感覚的な心地よさも、身近に使う家具にとっては大切な要素なのだと改めて納得できました。


 
後日、お客様からお送り頂いた納品後のお写真を拝見して、新しい試みをご依頼いただけたことに、改めて感謝と、手ごたえを感じた一件となりました。N様、ご依頼どうもありがとうございました。


工房・伊東